◆ 人形の構造による分類 ◆


手づかい人形

手づかい人形 (てづかい・にんぎょう) hand puppet

川尻泰司の造語。直接手にはめて動かす人形で、片手で動かすものと、両手で動かすものとがある。

片手づかい人形 (かたてづかい・にんぎょう) hand puppet

人形に直接手を差し込んで、動かす構造の人形のうち、片手で操作するもの。現在もっとも使われている構造の人形のひとつ。

千代田工科芸術専門学校人形劇ゼミ「タン平くんとコン吉くん」
千代田工科芸術専門学校人形劇ゼミ「タン平くんとコン吉くん」

川尻泰司の造語。一般的には〈指人形〉やギニョルと呼ばれている。広辞苑などの辞書・辞典にも掲載されているが、川尻は人形劇人の立場から、この構造の人形は、指で動かしているのではなく、手から肘まで使って動かす構造ということで、この呼称を広めた。人形劇人の間では、定着した呼称となっている。

差し込まれた指の使い方は、多様な種類がある。

片手づかい人形

よく使われている構造は、(E,F図)のものだ。Eのものは、親指をはめた方の人形の肩が少し下がるのが欠点で、左右対称のフォルムにならない。Fは、Eの欠点を補ったもので、肩の高さ対称になるかわりに、小指の力が弱いので、操作に訓練が必要となる。

G図は、首に2本指を差すことで、人形の首を左右に振ることができるかわりに、少しつかいにくい構造である。I 図のように五本指をつかって足まで動かすこともできるものもありるが、大きな動きができない欠点がある。
 H図は、日本の伝統的片手づかい人形の主流的つかい方で、首の下についている短い棒を、人差し指と中指ではさんでつかう。首をよく動かせるのが特長で、片手づかい人形の欠点を克服しているが、かなりの訓練が必要とされる。構造上は、手づかい人形と棒つかい人形の複合的な操作法として発達した。
 J、K図のように、手全体を動かしてつかうものもありる。これらは指の細かい動きは必要としないで、面白い動きができる。訓練によっては、指を巧みに動かし、顔の表情を変化させる〈表情人形〉にすることもできる。
 また、衣裳の形状も多様種類があり、さまざまな手づかい人形となっている。。

突っ込み式手づかい人形 (つっこみしき・てづかい・にんぎょう)

首管と手管に指を差し込んで動かす人形で、一般の人によく知られた構造である。日本の手づかい人形の流れは、挟み式手づかいの形式であるが、突っ込み式の手づかい人形の方がより古いものと考えられる。

津軽人形系の人形や、大分県中津市の古要神社の神相撲に登場する2体の小豆童子はこの構造である。小豆童子や、後水尾天皇に献上された気楽坊も差し込み式だが、袖だけで手は付いておらず、中国の布袋戯(ぷーたいふ)と同じ形式である。

津軽人形〉金太豆蔵
津軽人形: 金多豆蔵一座

挟み式手づかい人形 (はさみしき・てづかい・にんぎょう)

猿倉人形系のものは、日本独自の構造で、首管に指を差し込むのでなく、首の下に飛び出たような短い棒を人差し指と、中指で挟んでつかう挟み式の構造である。この構造の利点は、差し込み式と比べ、首を自由に動かせることである。(片手づかい人形 図のH)

近松門左衛門の時代の浄瑠璃人形は、現在の文楽のような三人づかいではなく、一人づかいであった。内部の構造を示した図版は残っていないが、残された図版や、現在残っている人形を見ると、首に長目の胴串が接続されていたと類推される。その胴串を極端に短くして、この構造の手づかい人形に改良されたものと考えられる。ただし、そのことをあきらかにする過去の資料は残っていない。

猿倉人形_岩見重太郎
猿倉人形: 吉田千代勝一座
猿倉人形_岩見重太郎

手妻人形 (てづま・にんぎょう) hand puppet

手づかい人形のことで、江戸時代の呼称。当時の図版を見ると、首の部分は、現在の文楽人形の胴串の原形になる形状であったと、推測される。日本式片手づかい人形と呼ばれることもある。

帛紗人形 (ふくさ・にんぎょう) fukusa hand puppet

西川小勝:木更津の帛紗人形
 手づかい人形で、江戸時代からの呼称。説教節で演じられた。
 猿倉人形と同じ構造の人形で、胴串はなく、首に付属する短い棒を指に挟んで操作する。(H図参照)
 帛紗とは、主に茶道で、茶器を取り扱うときに用いられる布のこと。


 写真は、西川小勝:木更津の帛紗人形
 

玉人形 (たま・にんぎょう)

ボール状の首を、素手の人差し指にさしただけの人形。ロシアのセルゲイ・オブラスツォフが得意とし、世界に広まった。。

セルゲイ・オブラスツォフ
セルゲイ・オブラスツォフ

布袋戯 (ぷーたいふ) 

中国福建省を中心に分布する片手づかい人形。人形の下着が長方形の袋状になっており、手管は付いていない。人形を空中に投げ上げ、宙返りさせるなど、アクロバティックな演技で戦う場面を演じるのが特徴。

掌中戯 (ちゃんちょんふ)

台湾での布袋戯の呼称。元は、布袋戯と全く同じ物であったが、多くの観客に見せるため、時代とともに人形が大型化し、体に対して首のサイズの比率も大きくなっている。(→ 布袋戯

布袋戯 布袋戯   掌中戯 掌中戯
布袋戯 
掌中戯「孫悟空」正明〓

両手づかい人形 (りょうてづかい・にんぎょう) 

川尻泰司の造語。人形に直接手を差し込んで、動かす構造の人形のうち、両手で操作するもの。人形を操作するものが無理な姿勢になるものが多く、あまり普及していない。

いくつかの構造を紹介すると、日本の創生期のNHKテレビ人形劇、「ちろりん村とくるみの木」で使われた小沢鉄造の採用した両手づかい人形は、親指の側面を拝むような形でピッタリと合わせ、両親指を首に差し込みむ。次に残った両手の2本の指をまとめて、人形の手に差し込みむ。この人形の特徴は、人形の足の部分がズボンなら、両腕を差し込むことで、脚の動きも同時に表現できることだ。また、首管に2本の指が差し込まれていることで、指をずらすことで人形の頭を左右に振ることができる。

川尻泰司考案の両手づかい人形は、文楽の人形を参考にしたもの。首の部分は、棒つかい人形の図Aのように胴串になっている。胴串を左で握るなら、右手の親指と人差し指を、胴串の後ろから、またぐように人形の両手に差し込む。小沢のものと同じように、ズボンなら脚の動きも可能。

これら2種の構造は、1970年代まで、日本で広く行われてきた。しかし、実際に操作してみるとわかるが、ケコミ芝居においては、かなり無理な姿勢を維持しなければならないので、今日では、ほとんどやる人がいなくなった。〈出づかい〉の技法を活用すれば、無理な姿勢が解消されるので、今後見直されることになるかもしれない。ただ、操者の腕を人形の背中から差し込むことになるので、両足を動かすことはできなくなる。

川尻泰司の両手づかい人形 両手づかい人形
川尻泰司考案の人形 / NHK「ちろりん村とくるみの木」の人形
両手づかい人形
           様々な両手づかい人形?

下の写真は、ソフィア中央人形劇場「ピーターと狼」の両手づかい人形。ブラック・シアターなので操者は見えないが、人形の背後に立っている。操者の右手の親指が、人形の首に差し込まれている。人形のフォルムは、いびつだが、表現力があり、操者の姿勢も自然なので、現在もよく使われている構造。

ソフィア中央人形劇場「ピーターと狼」 
ソフィア中央人形劇     場「ピーターと狼」

表情人形 (ひょうじょう・にんぎょう) face puppet

片手づかい人形のK図のように、柔らかい素材で人形の顔を作り、指先を巧みに動かし、様々な表情が表現できる人形。ロシアのセルゲイ・オブラスツォフが広めた。

人形劇団プーク_表情人形 
人形劇団プーク
オブラスツォーフ_表情人形 
セルゲイ・オブラスツォフ

アメリカの「セサミストリート」のマペットの人形のように口がパクバク動くだけのものもある。
 厚手の布やゴムやウレタンなど、やわらかい林料を使えば、口がパクパクするだけでなく、いろいろな顔の表情を作ることができる人形。人形を大きく作ることもできるし、操者の手をそのまま人形の手としてつかえば、さらに表現カ豊かな表情人形になる。

パクパク人形 (パクパク・にんぎょう) mouth puppet

口の部分がパクパク動かせる表情人形のこと。 (→ 表情人形

マペット (まぺっと) mappet

カーミットの人形   
 ジム・ヘンソンとフランク・オズにより創設された劇団の名前。マリオネットと、パペットの組み合わせによる造語。
 アメリカのTV番組「セサミストリート」に登場する、2人により考案された口をパクパク動かす人形が、有名になったことで、この構造の人形の名称にも使われるようになった。

 写真は、カーミットの人形

 


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 参考文献
「日本人形劇発達史・考」 川尻泰司 1986
「学校劇事典」 落合聰三郎 1984