人形劇の分類

本来、人形劇を分類することは、とてもむつかしい。なぜなら、それぞれの人形劇や人形は、必ずしも系統だって生み出されたわけではないからである。多くの芸術や技術が、いつも段階的に発展しているわけではない。ときに、すぐれた発展は、全く関係のなかった要素を結びつけることで、飛躍的発展を遂げることがあるからだ。

従来の分類は、経験主義的に分類されてきたという歴史がある。実際に携わってきた人々によって、呼称が付けられてきたのである。その方が実用的で、わかりやすいからでもある。結果、つぎはぎだらけの、分類となっているのが現状だ。

歴史的な発展を見据えて、系統的に分類し直さなければ、いくつもの系統上の例外を設けなければ収まりがつかないことになる。

ここでは、川尻泰司の「人形の構造による分類」「演出技法による分類」にしたがって、なるべく系統だった分類になるよう努めた。

 


◆ 人形の構造による分類 ◆

多くの研究者や実演家が、人形劇の分類を提案し、さまざま試みられてきた。

しかし、〈棒つかい人形〉として、ケコミづかいで演じる棒つかい人形と、〈影絵人形劇〉を、多く棒つかい人形で演じられる形体とを、同列において、別に分類するなど、分類の基準が何であるのか、不明確で、非論理的な分類が多い。その結果、例外に例外を積み重ねた、すっきりした分類とはなっていない。

川尻泰司は、演出技法による分類という新しい軸を加え、人形の構造による分類を組み合わせることで、2要素の複合的関係で分類することで、この問題を解決しようとした。

ここでは、人形劇にとって、最も重要な要素である舞台人形に着目した分類。操作方法や、形状をもとに分類した。

人形の構造による分類

ごく自然な分類で法、人形の操作法に着目した分類である。棒つかい人形、手づかい人形、抱えづかい人形、糸あやつり人形などである。
 しかし、今日まで確定した分類基準は構築されていないが、人形劇人の中では、川尻泰司の分類法が、おおむね使われている。

演出技法による分類

川尻泰司は、従来の人形構造による分類に区分け、演出技法にをもう一つの要素を、新たに採用することで、より系統的にわかりやすい分類になった。演出技法とは、人形劇を演じる舞台手法に着目した分類で、実演者らしい視点である。ケコミづかい、出づかい、影絵人形劇、ブラック・シアター、オブジェクト・シアター、腹話術などに区分した。

ただ、川尻は新たな着想を提示したのみで、体系だった分類にまとめたわけでないので、藤原玄洋が、その後体系だった分類にまとめた。
 2要素を組み合わせて分類することで、論理的な分類が可能になった。しかし、現状では、人形劇人の中では、よく理解されていないこともあり、一般化した分類とはなっていない。

直接づかい (ちょくせつ・づかい)

宇野小四郎による分類。手づかい人形のように、人形つかいが人形に直接接触した状態で操作するもの。

宇野は、従来の経験主義的な分類でなく、客観的、合理的分類を試みようとした。舞台人形の分類は、まず直接づかいと、間接づかいを分けるところから始めるべきと提唱した。残念がながら、充分な議論がされることがなかったことと、宇野自身が分類の全容を提示する段階に至らなかったため、提唱だけに終わってしまった。

筆者は、完全に客観的な指標のみで舞台人形を分類することは、困難だと考えている。理由は2点ある。客観的な指標のみの分類では、すべてを分類するためには、例外の上に例外を積み重ねることになって、かえってわかりにくいものになるという点。
  もう1点は、実際に人形劇に携わっている者が、現実の舞台人形を手にしたときに、違和感をいだき、受け入れにくいものになるだろうとの考えからである。

間接づかい (かんせつ・づかい)

宇野小四郎による分類。棒づかい人形や、糸あやつり人形のように、人形つかいが人形に直接触れない状態で操作するもの。

 


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