◆ 演出技法よる分類 ◆

腹話術

腹話術 (ふくわじゅつ) ventriloquism

演者が人形の声を出す際、観客に口の動きを悟られないように、ほとんど口を閉じたまま発声する手法のこと。この手法で演じられる人形劇は〈腹話術〉と呼ばれる。

通常、演者がイスに腰掛け、人形をヒザにのせて、人形の口を開閉させながら、演者との掛け合いで、漫才のように演じる。人形の構造としては、抱えづかい人形に分類されるげ、手づかい人形など他の構造の人形でも行われることが多い。
 〈いっこく堂〉により、世に注目されるようになったので、腹話術を口の動きを悟られない技術が注目されているが、本来は人形を使った話芸である。テレビのない時代に、ラジオ放送によって一世を風靡したことをみてもそのことがわかる。

また、〈いっこく堂〉の卓越した技術を見て、それ以前の腹話術師を低く評価したり、従来の手法の腹話術師が自信を失ったような発言を耳にする点が気になる。〈いっこく堂〉の技術は、音響技術の飛躍的発展により支えられていることを忘れてはならない。ささやくような小さな声を明瞭にとらえれるマイクがあってこそ成立する技術なのだ。また、腹話術は、本来話芸であるので、そこに重心を置くなら、完全に口が動かない点をことさら気にする必要はないのである。

人形劇団むすび座 丹下進
人形劇団むすび座 丹下進

日本では、マジシャンであった花島三郎(はなじま・さぶろう -1999)が、アメリカ映画の腹話術に魅せられ、浅草の⽂楽の⼈形師に製作させた人形に、“おしゃべり精ちゃ ん”と名付け、1941年、桃城(とうじょう)の芸名で、陸軍の催しに招かれ芸を披露し、翌年、日本人初の腹話術師として浅草で正式デビューした。
 その後、寄席芸としての腹話術を確立した第一人者として、川上のぼる(1929-2013)によって注目をあびた。その後は、幼児教育の現場や、交通安全指導に使われていたが、〈いっこく堂〉の いっこく が独学で技術を習得し、卓越した技術により、あたらしい腹話術を確立した。

わずかに口を半開きにして発声するため、マ行、パ行の音は、唇を合わさないとできないので、口が動いてしまう。技法的には、その音を避けるか、パ行の音はカ行の音に置き換える。

しかし、史上最も有名な腹話術師で、1930-40年代にかけて人気を得ていた、エドガー・バーゲン(シカゴ出身)は、マ行、パ行の音の発声法を編み出していたが、手法は明かされることはなかった。筆者は、エド・サリバン・ショー(1948-71年放送)のVTRを、NHKが1993年に放送した中に、バーゲンの出演した回があり、実演を見て、そのことを知った。

すぐに、その手法を見破ることができた。おそらく、上の歯を上唇、舌を下唇の代わりに使ったものと推測し、しばらく練習したが、わずかにできるようになった程度であきらめてしまった。とても高度な手法である。日本では、〈いっこく堂〉のいっこくが、独学により技術を習得し、有名となった。彼は、この手法を、後に公開している。

 


◆ 次のページを見る 【映像の人形劇】